慶應学生インタビュー第2部①金融40年でたどり着いた、リスク・信用・価値・組織の考え方

リスクは「避けるもの」ではなく、マネジメントするもの

隅田貫 日独産業協会東京事務所代表
橋野哲
聞き手 慶応義塾大学 橋野哲(ライフデザインラボ ラボ長)

第一部では、隅田さん自身のキャリアを追ってきました。ただ、イベントで語られたのはキャリアの選び方だけではありません。金融の世界で40年働いてきたからこそ見えてきた、リスクへの向き合い方、信用の重さ、価値の考え方、そして組織のあり方についても多くの話がありました。
一見すると第一部とは別の話に見えます。でも、聞いていくとかなりつながっています。本音に従うということも、リスクを取るということも、自分にとっての価値を考えるということも、結局は「自分の判断基準を持つ」という話なのだと思います。

金融の話になると、隅田さんが強調したのがリスクでした。
「リーマンショックって、結局リスクをみんな知らずに抱えちゃったから起こったんです。プライベートバンクでは、リスクをちゃんとお客さんに説明できないものは一切売りません。自分がわからないから」
そして、こう続けます。
「リスクは毒じゃないんですよ。リスクを危険だと思ったら、おかしな話です。リスクは避けるものではなく、マネジメントするものなんです」
「みんな自分がどれぐらいのリスクを取れるかわからないでしょ? だから一生懸命勉強したり、仕事をしたりするんです。取れるリスクは年々変わってくる、大きくなる。取れるリスクがわかったら、果敢に取ろう。その範囲で取ってる限りは、絶対死なないから」
「でも今の多くの人は、リスクって聞いた瞬間に『どうやって避けるか』って考える。違うんです。リスクはマネジメントするものです」
転職する、海外に行く、起業する、新しい仕事を始める。どれもリスクがあります。重要なのは、「怖いからやらない」でも「勢いで全部賭ける」でもなく、自分がどこまでなら負えるのかを考えて、その範囲で取りに行くことなのでしょう。

隅田さんの娘さんが通っていたドイツの学校には、こんな言葉が掲げられていたそうです。
「Be ambitious, Take a risk(大志を抱け、リスクを取れ)」
「起業する人はみんなリスクテイカーです。取れるリスクだと思うからやるわけで。何が取れるリスクかを考える。それがわかれば、どうするか決められる」

一方で、取ってはいけないリスクもあるといいます。
「一番ヤバいのは、取っちゃいけないリスクを取ること。起業して一番ヤバいのは、人間です」
「付き合っちゃいけない人が寄ってくるんです、弱い時に。目先の売上が欲しくて、『何でもやりたい』って気持ちになる。心も魂も売って、売上が欲しいという気持ちになるんですよ、経営してたら。その時に本当に魂を売っちゃったらアウトです」
数字として許容できる損失だけではなく、「何を失ったら自分ではなくなるのか」まで含めて考える。それが隅田さんの言うリスクマネジメントなのだと感じました。

ブラックスワン——「起こらない」と思った瞬間が危ない

リスクの話から、ブラックスワンの話になりました。

「皆さん、99%は起こりません。でもリーマンショックも『200年に一度しか起こらない』って統計学で言われてたんです。みんなそれを信じてワーワーってやった挙句に、起こったわけです」
「ブラックスワンって聞いたことあります? 白鳥は白いですよね。黒い白鳥なんて存在しないでしょ? でもそれが現れるんですよ。リーマンショックがそれです」
「200年に一度ってことは、起こらないってことじゃない。明日起こるかもしれないってことです」
隅田さんは、金融に携わる人間の心構えをこう説明しました。
「ブラックスワンの教えは、これが金融の教えです。起こらないことなんてない。全てが想定内でないといけない。ただ、いつ起こるかはわからない」
「想定外のタイミングはあります。でも起こることに対して、『うわぁどうしよう』っていうのはない。必ず対応可能だと。簡単ではないんだけど、そういう心持ちが大事なんです」

為替ディーラー時代には、とてつもない事態が翌日起きたらどうするかを定期的に議論していたそうです。
「僕がバブルの頃、為替ディーラーをやってた時は、週1回ぐらいみんなで議論してました。『明日、アメリカ大統領が暗殺された。何が起こるか。我々どうしたらいいか』みたいな話をするんです」
「人の不幸はよくないんですけど、とてつもないことが明日起こったらどうするか。金融やってる人間は、そういうのを常に考えてるんです」

未来を完璧に予測するのではなく、想定外が来ても致命傷にならないように準備しておく。この姿勢もまた、キャリアの話と重なります。

金融商品が複雑になるほど、「自分でわかっているか」が重要になる

イベントでは、共同主催者から、アメリカで働くアクチュアリーから聞いたという金融商品の話も紹介されました。スタートアップ投資に再保険を組み合わせ、高い利回りをうたう商品が生まれており、その設計側にいる人間自身が将来的な危うさを意識しながら市場が回っている、という趣旨の話でした。

ここはあくまでイベント内で紹介された話ですが、隅田さんはそれを受けて、バブル期の経験に戻ります。
「どこまで過熱してるか、ちょっと頭を冷やして見ないといけない。そこに誰が熱くなってるかを見る必要がある。自分一人が熱くなってると、もうそれ以外見えないから」
「自分は馬鹿になっていいんだけど、熱くなってもいいんだけど、盲目になっちゃいけない。馬鹿になりながらも、周りの人の様子もよく見てください」

熱中することと、盲目になることは違う。自分がその世界の中に入り込んでいる時ほど、一度外から見る目が必要になる。それは投資だけではなく、仕事にも言えることだと思います。

EXITを考えるのは、諦めるためではなく続けるため

さらに印象的だったのが、EXITの話です。

「こういう格言があります。『ダンスをするのはいいけど、出口に一番近いところにいろ』と。常に出口を考える」
「何事もそうなんですけど、EXIT戦略ってすごく大事で、始める時にプロジェクトもそうだし、極端に言えば戦争だってEXITを考えて戦争する」
「やめ時を考えながら始める。なぜかというと、それは続けるためなんです」
最初から撤退を考えるなんて、少し後ろ向きに聞こえます。でも隅田さんの考え方は逆です。
「人生が終わるわけじゃないし、失敗しても取れるリスクだったら、仮にやられて損しても大丈夫。また次やれる。そのためにもEXITを考える」

一度の失敗でゲームオーバーにならないようにする。そうすれば、むしろ大胆に挑戦できる。リスクを取ることとEXITを考えることは、矛盾するどころかセットなのだと思います。

第2部その2に続く

プロフィール 隅田 貫(すみた かん)

・1982年 東京銀行(現・三菱UFJ銀行)に入社
・2005年ドイツ老舗金融機関「メッツラー・グループ」本社に入社
・同社唯一の日本人として、日系機関投資家向け投資顧問業務を担当 現在メッツラー・ジャパン・ホールディングス アドバイザー
・日独ビジネスの架け橋として2015年にカンマネジメントオフィス株式会社を設立。 
・2025年10月より日独産業協会 駐日代表にも就任
・ドイツでの職場体験を参考に働き方の専門家として生産性と意欲が高まる働き方も提唱、多数の講演実績を重ねている。

https://kan-management.com/

橋野哲

プロフィール 聞き手 橋野 哲(はしの てつ)

みんなの金融教育協会 ライフデザインラボ ラボ⻑
所属:慶應義塾大学

大学では政治学と倫理学を学んでいます。倫理学を通じて「人にとってより善い生」を問い、その知見を基に政治学の知識を活用し「その生を実現できる社会設計」を考えています。金融教育は、私たち若者に「どう生きるか」という倫理的な疑問や、金融の在り方を再考する政治的な課題を提起する重要な役割を果たすと感じます。確かにこれらの問いはすぐに答えを出せるものではないですが、真摯に考え抜くことこそが若者の責務ではないだろうかと私は考えています。当事業の取り組みで1人でも多くの私と同じ大学生の人生に良い影響があるように取り組んで参ります。

この記事を書いた人